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がけ地の建築設計2017.05

がけ地での設計は平地での設計と比べ留意すべき点が多数あり、設計段階で注意を怠ると工事費の増大や施工時施工後の問題発生が頻発することとなります。敷地条件としてがけ地を検討する際には以下の点に留意する必要があります。

 

・地質調査

がけ地での建築設計で最初に確認するのは地質調査です。がけ地では支持層が傾斜していることが多く、ボーリング調査を複数個所行うことで支持層の分布・傾斜状況を確認します。水位が高い場合は上流からの水脈となっている場合がありますので、止水を意識した土留め等の仮設計画、杭、地盤改良工法の選定などに留意します。また、がけ地では転石が埋まっていることもありますので出来る限り敷地周囲の工事資料を集めるようにします。転石はボーリング調査では発見できないことがあり、杭施工中に発見された場合は施工箇所全てを掘削して除去する必要がありますので調査は入念に行います。(近隣で工事を行ったことのある業者にヒアリングするなどすることが有効です。)

(私が設計を担当した物件では、ボーリング調査の際には転石に当たらなかったにも関わらず、地盤改良杭施工箇所全てに転石が存在しました。構造設計者に判断を仰ぎましたが改良杭の下に転石があると支持地盤に到達したと言えないので全て撤去して下さいという意見でした。結局、全ての転石を掘削撤去し工期と工事費の増加につながりました。)

 

・施工方法

一般的にがけ地となる敷地では地層が岩盤となる場合が多く、杭及び基礎の設計は施工方法も含めて慎重に選択する必要があります。杭を施工する際には大型機械が搬入設置し辛く、設置可能な小型機械では岩盤を掘削する能力が不足することが考えられます。大型機械の搬入を検討する場合には主要道路からの機器搬入経路(道路幅員、道路傾斜、電線・高架橋の有無など)の確認、仮設または掘削土、購入土による作業ステージの造成、作業範囲の土留めなどを検討する必要があります。小型機械での施工を検討する場合でも機器搬入経路、作業スペースの確認、土留め検討が必要ですが、留意すべきは施工能力です。地質調査を早期に実施し、支持地盤の検討を行った上で掘削能力を決定しなければなりません。搬入可能な機械での掘削が困難と判断した場合には深礎工法を検討する必要があります。深礎工法は人力で掘削を行うため、工期がかかることも留意する必要があります。

(岩盤の掘削には騒音の問題もあります。敷地環境によっては機械の使用が認められない、近隣からのクレームで施工できないことも考えられますのでこの点も注意が必要です。)

 

・仮設計画

仮設計画では建物基礎や作業スペースを確保するため、土留めを検討することが多くなります。敷地に余裕がある場合にはオープンカットによる掘削を行いますが(オープンカットの場合も法面保護に留意)多くの場合、土留め壁を検討することになります。施工方法でも触れましたが地層が岩盤である場合は一般的な親杭横矢板工法、シートパイル工法での施工は困難が予想されます。機械の設置が可能である場合でも湧水の対応に注意し、仮設計画を行って下さい。建築計画で建築物の室が接地する場合には特に湧水対策が必要です。親杭横矢板工法は止水能力がありませんのでシートパイル工法(土留め内側での防水処理も検討)またはSMW工法による止水を検討します。(躯体での止水は建築計画で触れます。)一般的な土留めでは対応できないと判断した場合には早期に専門業者に相談し施工方法を検討するべきと考えます。アースアンカー工法は施工箇所によっては敷地外にアンカーが越境することがありますので注意が必要です。

 

・建築計画

建築計画では配置計画、地面との接地を意識した断面計画に注意して設計を行います。

がけ地では作業スペースの確保が難しく、施工のための作業スペースを確保した配置計画が必要です。地面との接地は断面計画と密接に関係しており基準法の階設定を慎重に行う必要があります。3m毎の平均GLと日影等の平均GLは異なる取り方をしますので注意して設計を行います。また前面道路も傾斜していることが多く、道路からの車両乗り入れや歩行者経路では勾配の設定がタイトになり易いので特に注意が必要です。(雨水排水を考慮し、前面道路から建物側に勾配が下がらないよう計画します。また、スラブの設定は仕上げ舗装厚を十分に確保して下さい。)

 

敷地に建築物を埋設する場合

建築物が地面と大面積で接地する場合には、土圧の検討、湧水対策、接地部分の室の温湿度対策が必要です。土圧検討は構造での対応となりますが後述する作業スペースの確保と併せて検討する必要があります。湧水対策は外壁側からの防水と室内側からの二重壁による対策が考えらます。外側からの防水(アスファルト系、ベントナイト系、塗膜系等)の場合には外壁打設後、防水作業の行える作業スペースの確保を検討して防水方法を選定します。また防水の施工部分には断熱材を貼って埋め戻しの際の防水保護とするとともに温湿度対策を行います。埋め戻しには砕石を使用するなど接地部分に水が溜まらないよう注意します。外壁防水に不安が残る場合には室内側に予め排水用パイプを設けておき、漏水がおきた際に二重壁に改修することも検討します。

二重壁による対策は大型建築ではメンテナンスも出来る回廊型の二重壁が望ましいですが、室内面積の確保を考えると薄型のものを採用することが考えられますので施工方法及びメンテナンス考慮し判断します。(二重壁の排水パイプがコンクリートの石灰成分で詰まることがあるのでスパン毎2箇所以上のパイプを設置し、排水溝から10㎜程度立ち上げて施工します。パイプ設置個所には点検口設けます。)

 

敷地から建築物を柱で支える場合

計画する建築物が比較的床面積を必要としない場合などは極力接地しないことを検討すべきです。大面積を接地すれば掘削量が増え、土圧の検討や湧水対策など懸念材料が増えるますのでコストを抑えたい小規模建物では有効な検討です。

 

・まとめ

以上のようにがけ地の設計では検討材料が非常に多く、仮設・土工事などの見積査定し難い項目が多いためコスト増となり易いので、建築主に丁寧な説明を行い、受注の際には設計期間や設計料を十分に確保するよう努める必要があります。